引っ越しをした。


まだ、ここがどこだかの実感がわかない、
まだ、何が変わったのかもわからない、そんな毎日。
帰ってきては、餞別でもらった野菜やくだものを食べて、
引き出しを整理したり、水回りを磨いたり、どこかに手をかけている夜。
寝付きもまだ、あまりよくはない。
ラジオばかり聞いているのは、きっとまだ依る瀬がないからだろう。
騒がしさや緩やかな声が、床ばかりがひろがるこの部屋を満たしている。


越してきたときには、一面を満たしていた段ボールとその中身は、もうずいぶんどこかに。
これからも少しずつ減って、入れ替わって、本当に必要なものだけが、手の届くところやクローゼットの奥に。
自分のからだみたいに。
入れ替えて、古いもの、新しいこと、大事なものに耳をすます時間。
さようなら ありがとう こんにちわ



ところで、今夜はセミが鳴いていない。
あんなにいた彼らが、一晩ですっかりいなくなってしまったかと思うと、
寂しいような、こわいような、胸に穴があいて風が抜けるような感覚。
夏ももう終わるのか、なんて簡単に言って、済ませられるようなものじゃない。
でも、鈴虫が鳴きはじめた。