気ののらない日。


朝の電車。
網棚をつかむ自分の手を見て、この皮膚の薄い手の数十年後が見えたような気がした。
嫌いではなかったこの手も、僕を置いて少しだけ先に進んでる。
少しずつイメージの外へと、現実の世界と時間を進み、幼いあたまはいつもその後を追い掛ける。


帰りの電車。
終着駅に着くアナウンスで起きて、正面の人と目が合う。
よだれをたらしていたり、うなだれていたりしていた訳ではなく、
なめらかに起きられたのだけど、ものすごく深く眠っていたのを感じた。
たぶんそれを見ていたんだと思う。


電話で話せたことはとてもうれしく、彼女の声や話し方がすごく好きだ。
なのに僕は、引っ掛かっていた余計なことを口にしてしまって、
それはきっと夜の時間を不安にさせたりするんだろう。
いつでもあせってしまう。
急がないと、この時間が過ぎて、消えていってしまいそうで、急ぎたくなんてないのに。


こうしている時間に、乾いた鈴みたいな、高くてきれいな音がすると思ったら、
氷が解ける音だった。
鈴なんてないのに、不思議だなあ、と気付くまでの間、少し気持ちが満たされた。