明け方の夢。
朝の同じ時間、うっすらと笑顔を浮かべた野球帽をかぶった薄いグレーのスーツの男が、
ゆっくりと窓を開けて、この部屋に入ってきて、
向かい合った僕を抱きしめると同時に、手にしたマイナスドライバーを右の脇腹から深く突き上げた。
声をあげることができず、ベッドに倒れ込んで、
玄関で背を向けて靴のひもを結んでいた妹に、逃げるように、絞り出すように口を動かした。
玄関に向かうにつれて、男の姿は薄れて消えていった。
何事もなかったかのように、妹は振り返る。
金属のドライバーが体に入ってくる感覚が、とてもリアルで、
今思い出しても、そこに入っているみたいで、息が苦しくなる。
目を開けると、丸まって胸を押さえている姿勢で、
脇腹の感触を確かめるまで、現実を夢が覆い尽くしていた。
とてもいい天気で、朝の空気が澄んでいるのに、窓を開けるのがこわかった。
男もドライバーも、本当になんでもないように、すいっと入ってきたから。
近頃、異常なことが近くにありすぎる。



ポットに入れたアイスコーヒーは、氷の音がカラカラと、一足早く、夏の音がする。
はじめたばかりだから、毎日少しずつおいしくなって、夜を過ごした朝が楽しみ。
気分を変えようかと、鞄には川上さんの本を入れていった。
あんなに好きだったやわらかい文章が、頭に入ってこなくて困る。
もう少しなのかな。
帰りにはCDと洋服を少し眺めて、旅のために、ノルウェイの森を手に取った。
新宿の街は人通りが少なめで、占いのおばさんに男女問わず、長い行列が出来ていた。


家に帰ってくると、大阪の友人から「国境の南、太陽の北」と「TVピープル」が届いていた。
国境はちょうど読み終わったところなのにな。
本だったら、かぶっても、全然悪い気がしないね。
ありがとう。
すぐに返しにいくよ。
君はこの本を読んで、どう思ったのかな。